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第1回
新しい別世界の始まり
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“それ”が届いたのは、3年前の暑い夏の日の午後だった。ホコリっぽい匂いの箱を開けると、それは恥ずかしそうにツルリと顔をのぞかせた。
私好みのボルドーに近い濃いピンクのカメラ付携帯。そっと息を吹き込むかのように、「電源」のボタンを押した。
分厚い取扱説明書を片手で抑えながら、やっとのことで友人らへ“初メール”。ワクワクしながら返事を待つ・・・が結局、数時間経っても、返事がくることはなかった。ちゃんと届いているのか否か。忙しくて私のくだらないメールに付き合いきれないのか。何度も携帯をチェックする。あぁ、“女の友情”とはなんと無情なものなのだろうか・・・。
どんよりとした気持ちのまま過ごしていたある日、携帯の請求書が届いた。「メル友を作ろう!」同封されていたチラシの一言に目が釘付けになった。“そうだ、メル友を作ればいいのだ!”目の前がぱぁーっと明るくなる。それは、気に入った相手へメッセージを録音してやりとりをするという、伝言ダイヤルだ。
「専業主婦です。楽しくメールのできるメル友を募集しています。」ヘンなところで真面目な私は、登録するメッセージを何度も練習し、ドキドキしながらも、なるべく可愛い声を意識してゆっくりと吹き込んだ。
「僕も既婚者です。よかったらメル友になって下さい。」数人の男性から届いたメッセージの中、彼にだけピンとくるものがあった。声が・・・低くて太い、よく通る彼の声がタイプだったのだ。すぐに私の携帯番号とアドレスを迷う事なく吹き込んだ。
「初めまして!タカシです。お返事ありがとう、すごく嬉しいです。」初めての受信メール。祝・記念すべき第一号!!!「こちらこそ、お返事ありがとうございます。色々なお話しをしましょうね♪」たまらなく嬉しくなって、私もすぐに彼へ返事を出す。
専業主婦というものに漠然とした不安と、単調な日々に不満と退屈さえも感じ始めていた。まるで欲しかったオモチャを与えられた子供のように、携帯電話を手に入れた事で知った、“新しい別世界の始まり”に、私は目を輝かせていた・・・・。
2004.01.17 |
◆佐原天希 |
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