予定より随分早い時間に弁護士事務所についた。
ホームページで地元の弁護士を調べ、行くと決めたものの、怖かった私は、同じように多重債務を抱える友人とふたりで予約を取った。
ドアをくぐると、大きな鉢植えが置いてある。
この鉢植えのおかげでこちらから事務所内を見渡せても、たくさんいるスタッフからはわたしの顔はわかりづらい。 普通に生活していれば、事件事故に巻き込まれない限り、まず用のない場所である。
受付で予約した旨を告げると、応接室のような小さな部屋に通され、そこでどこから借金したか、なぜお金を借りたか、今仕事があるかどうかなどを細かく聞かれた。
これから弁護士と面接をするのだが、その事前調査といったところだ。
弁護士にお願いするとは決めたものの、私が決めていても、弁護士が引き受けてくれるとは思えない。
聞き取りが終わり、今度は紙に住所、氏名、連絡先などを書き、カード会社や借入額の記入をする。この用紙を書き終わるころ、部屋のドアが開き、めがねをかけた男性が入ってきた。年はまだ30代後半くらいだろうか?優しい顔立ちの人だ。
「こんにちは。弁護士の河野です」
二人そろってあわてて会釈をする。河野弁護士は先ほど記入した用紙に目を通した。
沈黙の時間が流れる。
私はこれからどうなるのだろう。 私はこの後どうすればいいのだろう。
それは横で同じような状況で訪れた友人も同じであった。
人間とは非常に都合よく物を考える生き物である。
それがたとえ「間違っている」事だとしても、自分に都合がよければ、無理な理屈をつけ、それを通すのである。
前回はわたしが弁護士事務所に行くまでの借金の経緯を書いた。 ドラマではないが、「サラ金」からお金を借りて、払えなくなった場合はどうするか。テレビなどは過剰な演技だとしても、・・・いや実際はテレビ以上だろう。 朝8時きっかりになると、担当者から電話がかかってくる。
なぜ8時きっかりなのか?法律では朝8時から夜9時の時間帯は取り立ての電話をしていけないことになっているらしい。 つまり、この時間帯をはずせば、架電OKということになる。
さわやかな朝の挨拶がわりに、入金状況を聞かれる。「お約束の日は昨日でしたが、どうされましたか?」 やんわりと喋る女性の声の裏側には、有無を言わせぬ威圧感がある。「あの、すいません・・・そのう・・・・」
恐る恐る理由を申し出ようとするのだが、「いつならお支払いいただけますか?」と話など聞いてくれる雰囲気ではない。
こういうことを毎月繰り返していると、担当が男性に代わる。男性の場合は容赦がない。
「あのねぇ、明日明日って、今日払えないもんが明日何とかなるわけ?」「誰かに借りてでも払ってよ!」「あんたさぁ、いつもそうだよね。口だけ払う払うって・・・・」
延滞をした瞬間から、客ではなくなる。客ではないので「椎原様」ではなく「あんた」呼ばわりだ。多重債務者なら誰もが経験したことのあるやりとりだろう。
借りるときは「借金増えるなぁ」と心のどこかで良心が警告する。
しかし借り入れすることにより、自分に大金が転がり込むと勘違いする。
年収や職業、借り入れ件数から「無理かな・・・」と思っても、サラ金の担当者に気に入られようと、「借り入れのできる」物語を作る。
そして無事に借り入れたはいいものの、多重債務者に計画性など無いから、延滞を繰り返しはじめ、担当者から「ちょっとどうなってるの」と文句を言われる。
すると「あいつちょっと遅れたくらいでうるせえなあ」となる。
約定日を守っていないほうが悪いのだが、逆切れするあたり実に都合がいい生き物なのである。
大手サラ金のホームページを開く。テレビCMなどでおなじみのA社には、カウンセリングセンターと言う部署があり、返済方法や遅れてしまった理由などを男性社員が応対する。「お客様の数だけ、理由がある。聞き上手でありたい」とその部署に所属する社員は話しているが、たいていのサラ金の電話はこちらが遅れた旨を説明しても「しかし、期日は過ぎておりますので」と聞き上手ではなく、「聞き流し上手」ではあるようだが。
2004.10.17 |