ヴィヴァルディ
Vivaldi,Antonio
モテット『まことのやすらぎはこの世にはなく』RV630
Nulla in mundo pax, RV630
エリー・アーメリング(ソプラノ)
Elly Ameling
イギリス室内管弦楽団
English Chamber Orchestra
ジェフリー・テイト(チェンバロ)
Jeffrey Tate
指揮 ヴィットリオ・ネグリ
Vittorio Negri
1978年録音
映画「シャイン」をご存じでしょうか?実在のピアニストの数奇な人生をもとにつくられた、感動的な映画です。今も存命中で、映画のヒットのあと、演奏会を催したようですが、日本の批評家はあまり芳しくない評価をしていたことが記憶に残っています。
そんなこともう、演奏できただけで素晴らしいじゃないかと私は思ったりするのですが、CDにする場合やはり完璧でないといけないのかもしれません。恭子のメルマガも、極力できるだけ心を尽くし完璧に近づけようと願い、切磋琢磨しております。みなさん温かくみまもってね♪
で、今回は、その映画「シャイン」で、エンディングにつかわれたヴィヴァルディの「まことの喜びはこの世にはなく」の紹介です。
曲は「シャイン」のなかで数多く登場するクラシックを網羅したCDから選びました。この「シャイン・クラシック全曲版」は結構お買い得ですよ。12曲のすべてが、一流の演奏であります。
さて、まず聴いて驚くのは、歌い手、エリー・アーメリングの声の美しさでしょう。清冽で一点の曇りもないその声は、硬質で透明度の高いグラスを思い起こさせます。
そのグラスを通して感じるヴィヴァルディのメロディーは、鮮やかな空と、ほころぶ百合と、天使の微笑が描かれた絵画のように優雅で典雅。音楽の流れるあいだ、絵画の世界へ私は飛び込み、遊び、夢を見ます。
あら、でもちょっとまって。この曲の題名って「この世にまことの喜びはなく」だったわよね?イメージが違うわ・・・・。
そう、この曲の題は「この世にまことの喜びはなく」です。歌の詩にもこのようなことが書かれています。「この世は見せかけの美しさで眼を欺き しかも現れない傷を心に負わせる。」「戯れに天国を得るかのように 誘惑を追い求める物を 避けなさい。」
生きる喜びの賛歌のようなヴィヴァルディのメロディーと「蛇は花々のあいだにいて、その毒を美しく見せかけている。」と修道士の嘆きめいた詩の、二つの違いはなに?
ヴィヴァルディはどうしてこの詩にこのメロディーをのせたのだろう?しかし、訊ねられるわけもなく、私はただ、音楽に身を任せるだけですが詩の意味を知った後、なんと官能的に、この曲はきこえてくるんでしょう。
先の典雅な絵画の前に立ち、じっくり細部をうかがうと、空の色は薔薇色を帯び、花は艶やかに咲き始め、天使はどことなくあやしい微笑を浮かべているようです。エリー・アーメリングの美声もかえって、その清冽さの冴えるほどに、官能美が漂います。ああまるで、着物姿の人妻が、楚々としながらもうなじで誘う姿に似ている。なんて、そんなふうに思ったのは私だけかしら(笑)
内に含む官能を隠して、清らかなまま、音楽は聴く者を天上の国へ誘いこみます。
そこが神の住まう場所か、花々のあいだに蛇を隠した、いつわりの天国か心の姿がそこに映し出されるのかも。 じゃ、恭子の心は・・・・・(笑)
さてさて、聴いたあなたは、どんな風景を見るんでしょう。

まことのやすらぎはこの世にはなく
2000.11.03 |