雑文の女王 -沢木まひろ-

目指すはメルマガ界の『天声人語』。「あるあるある!」「おー、いいこと言うじゃん」「うまいっ!」と毎週うなずいていただきます。読みやすく、かつきれいな日本語を大切にする、沢木まひろの週刊コラムです。

沢木まひろ

現代メロンパン考

日々つれづれ思ふ事

読むドラマ

雑文の女王


沢木まひろ自己紹介

あなたもライターになれる

 

雑文の女王

発行履歴

15

それはまた別の話

14

価値観

13

頼れる人

12

アタマも風邪をひく。

11

背番号

10

親心

9

あなたは1人だけ。

8

年の始めに。

7

レッツ・ショッピング

6

得意分野

5

ものを大事に

4

失神したい?

3

それでも花嫁は泣く。

2

脱ぐ女

1

背徳の食卓

0

決めゼリフ

第15回

それはまた別の話


おっ、と思う言葉があった。ぼんやりながめていたテレビドラマの、職員室のシーンだった。ほんとにぼんやりしていたので前後関係はまるで憶えていないのだが、とにかく男先生のセリフである。

「若いころって、早く大人になりたいって思うんだよね。でも実際なってみると、けっこうつらかったね、大人って」

そうなのだ。やってみると、正直しんどい。

きっちり準備万端で大人になれる人は少ないだろう。逆に、準備がどうのと考える前に、厳しい外的条件のために否が応でも成長させられちゃう場合もある。どちらにしろ、だれもが或る程度の年齢を過ぎたら、世間からは大人として扱われる。学割は使えなくなり、自分の責任は自分で負うのがアタリマエになる。そうすると、昔は限りなく自由に思えた大人という立場が、急に肩の上で重みを増しはじめることとなる。で、たいていの人が言いだすのだ。あのころに戻りたい。

私には、自分で勝手につくった勝手な標語がある。「やらなかった後悔より、やった後悔」というのだ。

もともと「ああすればよかった」とか思うのが嫌いで、もし思ってしまったとしても、悔しいので口に出さずにいるほうだ。でも実際には臍を噛んでいることは数限りない。すぐ手前まで近づいたにもかかわらず、つい怖くてやめてしまったことも1度や2度にあらず。今になってつくづく思うわけだ。あのとき行動していたら、人生はどんなふうになっていただろう? 失敗したら悲惨だったかもしれないが、かといって"もっと輝いたかもしれないもう一つの人生"を想像するのも、それはそれで情けないものである。

だから大人になった今、やってみたいと思ったことはできる限り、法を侵さぬ程度、モラルに反しない程度でやる気満々である。だがここでまた、意外にも大人であるということが障害になる。これは、子供のうちにはまず想像し得ないだろう。

思慮分別、というやつである。

「いい年をして」こんなこと言ったら、みっともない。「いい年して」そんなことしたら、どう思われるかしら。こういう考え方は、「この年になったら」あまりに無謀だ。やめておこう、もう「いい年なんだから」。

友人が恋をした。可愛い女性で、たぐいまれな感性を持っていて、そして、そこそこいい年である。好きになってしまったその相手はびっくりするほど年下だという。熱病のごとく突然うまれた感情に戸惑うしか術がない状況だとか。

彼女には家庭がある。ご主人のことを信頼しているし尊敬している。好きか嫌いかと問われれば、断然好きである。でも、それとは別に恋になってしまった。察するに余りあるしんどい精神状態だ。

築き上げた家庭を壊す気は毛頭ない。彼に思いを打ち明けるつもりもない。これは押し込めておくべき気持、やがて会えなくなる日が来れば薄れるであろう感情と信じて、ひたすらに日々を過ごすしかない。「つらいわよ」と彼女は笑う。なぜか笑う。彼女は大人だ。大人は人前で泣くもんじゃないから、つい笑ってしまうのだ。

「こないだ、考えてて愕然としたんだけれど」彼女は言う。「もし奇跡が起こって、彼と私がそういう関係になったとするじゃない。でもね、やっぱり止めなきゃいけない、歯止めをかけるのは私の役目だなって思ったの。笑っちゃうんだけどさ、彼のご両親の気持になっちゃったのよ。どこの馬の骨かもわからない子持ち女に持ってかれるために、大事な息子を育てたんじゃない、そう思うだろうなって…間違いなく八つ裂きにされるよね、私」

妙な場面で、自分の中に大人を発見した。そう話して彼女は、もう一度笑った。若い人から見れば滑稽にうつるのかもしれないけれど、彼女と同じく「いい年」になった私にすれば、これはもう究極的にせつない恋のはなしである。

やっと好き勝手に飛べるようになったと思ったら、前後左右に壁があり、両手両足には思慮分別という重りがぶらさがっている。我々は大人になってしまった。だからと言って、飛べないわけではない。子供のころより身体が大きくなり色んな経験を積んだから、荷物も増えただけのことである。山登りのために重たいリュックを背負うのは、危機が迫った際に役立つ品々が入っているからである。

春が来た。旅立ちの季節だ。「あのころに戻りたい」と思いつつ、これからいかにカッコよく羽ばたくかは、もう、その人次第なのである。

                         ― 了 ―

2003.02.27
 
沢木まひろ

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更新:2008.11.20
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