[125]皿回しの発想

 尖閣諸島の領有権をめぐって反日運動が中国で目立つようになってきました。また今年は戦後60年にもあたり、南京ではすでに反日運動が始まったとのニュースも聞きました。日本製品のセレクトショップ展開をしている香港のビジネスパートナーは今年業容を拡大する予定でいたのですが、当局から日本と関連を強めるにはタイミングが悪いと耳打ちされたそうです。どうも政府自体がこうした反日運動を誘導しているとの噂もあちこちから耳にします。
 これが先々週で取り上げた中国の「カントリー・リスク」です。特にこういった政治がらみの感情的なカントリー・リスクの前には、一人よがりの努力や誠意は通じないため、リスクを縮めて時を待つしかありません。幸い、私たちは自由市場である香港も持っているので、こういう時期は本土にはあまり力を入れず香港市場に注力することにしています。たくさんの仕事をかかえ、ただでさえ忙しいのに、ビジネスパートナーの兄弟たちが日本製品のビジネスにこだわる理由は日本が好きだからです。彼らの父親は広東省の貧しい農民の出身でした。学校にもろくに行けず香港に出て来て日本のカメラメーカーのレンズ職人となりました。退職するとき日本で日本の職人に指導してほしいと言われたそうです。何の学歴もない中国人の一職人をそこまで評価してくれた日本の企業に彼らは今でも感謝をしています。そして父親への誇りが日本製品に関するビジネスへの情熱とつながっているのです。この思いに私も精一杯応援しています。


 会社員の頃、上司に言われたことがあります。「商社マンは皿回しができないといけない。次々とビジネスのネタになりそうなものを探して同時にできるだけ多くの皿をまわす。そうすれば、ひとつやふたつの皿が落ちても平気だ。」経営論ではよく「選択と集中」と言われますが、吉野家の牛丼の例を見てみましょう。米国産の牛肉を集中して仕入れることにより効率を図ったものの、ひとたび禁輸になれば牛丼を売ることができなくなってしまいました。国際ビジネスに不測の事態はつきものです。次の手、またその次の手を用意しておくのが国際ビジネスに係る者の心得と思っています。
 私自身は中国以外にアセアン諸国という専門領域を持っています。中国と香港の景気はだいたいシーソーのような関係にあります。中国に大きな問題が出て来ると、リスク・ヘッジのためにアセアン諸国へビジネスも流れていくという関係にあります。偶然、新しい展開で昨年末からマレーシアに人脈を形成しつつあり、最近ではシンガポールのコンサルタント会社が日本の提携先を求めているというニュースを知りました。日本の公的機関もクライアントのようですので信頼がおけると判断、早速応募をしてみました。
 私自身はアセアン諸国では各政府機関との仕事があり、そのホームページや現地の新聞など英文でのデータが少なからずあります。経歴と写真をメールで送って 1時間もたたないうちにその会社の社長からメールがあり「業務経験とビジネス面のスキルが素晴らしい、あなたのような人と知り合え幸運」と絶賛していただきました。だからと言ってすぐ仕事になった訳ではなく提携先に登録してもらったにすぎませんが、お世辞でも知らない人からほめてもらえ明るい気持ちになりました。これでまた新しい小さなお皿がゆるゆると回り始めたようです。まさにピンチはチャンス、中国ビジネスで頭がいっぱいの時はとてもこんな余裕はありません。中国の反日運動家たちに感謝したいくらいです。
河口容子