[036]アテンドの達人(2)

 今週は問題となったアテンド術の例をまずあげます。いずれも会社員の頃の話です。客先に外国人を連れて行った上司が予定の時刻を 2時間以上過ぎても帰って来ないのです。実は外出から帰ったらそのまた上司を含めて数人とミーティングをすることになっており、皆いらいらと帰りを待っていました。客先に電話をしても予定どおり帰ったと言います。そのうち事故に遭ったのではないかと大騒ぎになりました。そこへ帰って来た上司は「桜がきれいなので見せたかったので千鳥が淵に行って来た。ついでに靖国神社にも連れて行ったよ。喜んでくれてねえ。」とニコニコ顔です。
 この上司は親切かも知れませんが、先週も書いたようにあくまでも日本へ来た目的が優先です。そして多くの人を何の連絡もなく待たせるというのは非効率この上ない話です。桜を見せたいなら、最初からそういうスケジュールをどこかに組んでおく、あるいは食事を一緒にする機会があるなら、桜の見える場所を選ぶ、あるいは少し遠回りしてでも桜を見ながらレストランへ行くという方法もあります。
 もうひとつの例はやや高齢の外国人女性の会長を六本木の高級居酒屋へ招待して大顰蹙をかったという上司がおります。彼女は一切お酒を飲みません。同行した人によれば酔って大声で話す客にタバコの煙がもうもうとしていたそうです。彼女としては空気は悪いし、話すにも大声をはりあげざるを得ず、しばらく、おかんむりであったとのことです。世の中、どんな所にでも関心があるという人もいれば、なるべくマイペースを守りたいという人もいます。重責を担い、ましてや高齢であればなるべく疲れないよう「心地良いおもてなし」が必要です。


 もう20年くらい前の話です。私の勤務する会社の米国の現地法人から女性の管理職が日本へ研修にやって来ました。毎日、駐在員時代にお世話になった男性たちが交代で食事に招待したりしていました。ある日、女性の話相手もほしいだろうと私にお声がかかりました。私は彼女を自宅に招くことにしました。毎日、外食ではすし、てんぷら、すき焼き、しゃぶしゃぶ、ステーキなどとパターンが決まってしまい、これらは彼女のいるニューヨークでは珍しくも何ともない食べ物です。自宅では母が作った五目すしや野菜の煮しめなどごく普通の日本の家庭料理を出しました。我が家で体験したこたつが気に入り、秋葉原で購入して帰国したのは社内で有名な話となってしまいましたが、その後 5年ほど前、私がニューヨークへ出張した際、面識のまったくない彼女の部下までが私の名前を知っているのに驚きました。我が家の料理をお弁当箱に詰めてホテルに持って帰ったことや母がみかんを剥いてあげたことなど、彼女は10何年も覚えていて周囲の人たちに語りついでいたのです。
 もうひとつ美談があります。夫婦連れで来日した場合、ご主人が商談をしている間、奥さんの買い物や観光のアテンドという仕事が発生することがあります。私は後輩の女性にそのアテンドを依頼しました。彼女は国文科卒で英語は得意ではありませんが、チャレンジ精神が旺盛です。そして何よりも日本の文化には詳しい人です。コースなどなるべく彼女に自分自身で考えさせ、最終の時間取りなどは一緒に相談して修正を加えました。そして、つつがなく彼女はその仕事を終えました。自信もついたようです。「実は、失礼があってはいけないと思い、休日にコースを全部まわってどこで乗り換えるのが便利か、どこにトイレがあるか、どの辺で食事にしたらいいかなどチェックして英語で何て言おうか練習したんです。それでも時々うまく説明できなくて、奥さんに何度も大丈夫よ、って言っていただきました。とてもやさしい方で助かりました。」心を尽くすこと、それは形式や言語能力を超えます。日本人が得意とするものではありますが、忘れかけているものでもあります。
河口容子